FILE29  キキョウ

       
図1 雄花の時代の終わり 図2 雌花の時代

 いわゆる秋の七草で知られる植物です。
 万葉集の中で、山上憶良が「秋の野に咲きたる花を指折り、かき数ふれば七草の花。萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花また藤袴、朝貌(あさがお)の花」と歌った朝貌の花とは、キキョウのことであると言われています。
 現在、我々がアサガオと呼んでいる植物は、熱帯アジア原産で、日本へは平安時代に入り、8世紀の万葉集の時代にはまだ渡来していなかったと考えられています。

 つぼみの時の花弁の重なり方が、多くの花では、屋根瓦をふいたように一つの片の縁が他の縁に重なる(覆瓦状)なのですが、キキョウは縁と縁がぴたりと合う敷石状になっています。そのため、つぼみは風船みたいに膨らんでいるわけです。
 私はまだ試していませんが、つぼみを指でつまんで圧すと、ポーンと音を立てて壊れるということです。 
 石川県松任市の生んだ俳人「加賀の千代」の有名な俳句


  
キキョウの花  咲くときポンと いいそうな

が印象的です。
 さて、キキョウの花は、自花受粉を防ぐために、雄蘂先熟(ゆうずいせんじゅく)という方法を採っています。
 咲き始めは、雄花の時代です。葯が雌しべを取り囲んで、花粉を雌しべの花柱に付けます。雄しべは役目を終えて、枯れて花冠の底へ倒れ込みます。(図1)
花柱の側面は、花粉にまみれており、蜜を求めて花へ来た昆虫の体に花粉を付けて運ばせます。 次に雌花の時期を迎えます。堅く閉じていた雌しべの柱頭が、5つに裂け、錨のように外に曲がって、他の花の花粉を受け取る準備をします。(図2)
 雄しべと雌しべの見事な連係プレーによって、巧みに自花受粉を避けております。
 環境庁植物版レッドリストでは絶滅危惧U類(絶滅の危険が増大している種)になっています。

  このような受粉の仕組みはいろいろの植物に見られますが、同じキキョウ科のホタルブクロについての詳しい解説が(ここ)にありますのでご覧下さい。