FILE48  マルバマンサク  Hamamelis japonica Sieb. et Zucc.  var. obtusata Matsumura

図1 マンサク(マルバマンサク)の花は小さく繊細なので遠くからではあまり目立たない。

図2 マルバマンサク:黄色い花弁、萼片は暗紅色。

図3 アカバナマンサク:花弁も暗紅色

図4 アカバナマンサク
図5 花弁の基部だけが赤いものはニシキマンサクと呼ばれることがある。

図6 マルバマンサクの葉:北海道の西南部から本州の鳥取県に至る日本海側に分布するものは、変種のマルバマンサクで、葉の先が丸みを帯びる。

 雪解けというか、まだ残雪の残るくらいの山中で、まず最初に見られる部類の花です。しかし、そんなに目立つ大きな花ということでもないので、かなり注意して探さないと見逃してしまいそうです。細長い花弁が、小さな蕾の中に閉じこめられていたので、よれよれの折り目が付いています。
 マンサクと言う名で親しまれている植物ですが、日本海側に分布するものは、葉の上半分が半円形をしているので、変種の
マルバマンサクとされています。
 石川県では、どこへ行っても見かけることのできる植物です。マンサクの花には、赤くめくれた4枚の萼片の内側にリボンのようなよれよれの細く黄色い4枚の花弁があります。花弁の基部が赤みを帯びた
ニシキマンサクや、花弁全体が赤いアカバナマンサクがあると聞き、みたいものと思っておりましたが、ついに撮影に成功いたしました。アカバナマンサクは野外では、黄色の普通種ほどは目立たず、どちらかというと汚い感じですが、クローズアップで見るとそれなりの美しさがあります。

 学名の Hamamelis はセイヨウサンザシまたはこれに似た木につけられた古代ギリシャ語で、「hamos 似た」+「melis リンゴ」が語源と言われています。また、obutusata は鈍頭のと言う意味で、葉の先が丸みを帯びているところから来ています。
 
 マンサクの名の由来は、「豊年満作」「先ず咲く」「シイナ花の実名敬避性」 の3説があります。 
 「豊年
満作」の満作からきたもので、この木が枝いっぱいに花を咲かせるので言う、となっています。 
 「
先ず咲く」は、早春にまっ先に咲くところから言われます。また、葉に先立って咲くと言う意味と解釈する場合もあります。 
 
シイナ花の実名敬避性」:シイナというのは、中身の入っていないしなびた果実のことで、このねじれた細い花弁からシイナを連想したものです。現に、マンサクのことを駿河磐田地方に「シイバナ」とよぶ方言があるそうです。シイナは、満作の反対、凶作を意味します。アシ(悪し)をヨシ(良し)と呼び換えるように、凶作を連想させる忌詞(いみことば)であるシイナを、その反対語であるマンサク(満作)とした(実名敬避性)のではないかとの説もあります。詳しくは、「植物名の由来 中村浩 東書選書」をお読み下さい。
 なお、同書では、植物名には、縁起の良い、めでたい名のものが多いが、その中には、その反対語である不吉の名がオリジナルな古語として隠されているものもあるに違いないとも述べられています。そういう例をご存じでしたら、教えて下さい。

仮雄しべ
図7 マルバマンサク(アカバナマンサク)の花の中心部で、花弁の根本に張り付いたようにある仮雄しべ。中心の2つの突起は雌しべの柱頭。黄色を帯びた4つの塊は雄しべの先端部。

図8 仮雄しべ:表面に汗をかいたように蜜を分泌している。画像の右および左下方(実際の花では、下の方になる)へ、蜜が流れている。

 マルバマンサクの花を顕微鏡で観察していたら、花弁の基部に何か小さな針のようなものが見えました。日本の野生植物 木本1 平凡社 には「仮雄しべが4本、雄しべの間に位置し、雄しべよりやや短い」という意味のことが記載されていました。これが仮雄しべでしょう。

「仮雄しべとは、多少とも形は残っているが退化して花粉を作らなくなった雄しべを仮雄しべという。(図説植物用語辞典 清水建美 八坂書房 による)」

しかしこの場合、単なる痕跡組織ではありません。よく見ると汗をかいています。マンサクの花が下向きに咲くこともあって、この汗が仮雄しべから垂れている状況も観察できました。
あくまでも私の仮説ですが、この
仮雄しべは、蜜を分泌する腺体となっているのでしょう。あまりにも小さくてなめて確かめることができませんので仮説ということにしておきましょう。

後日談:私がHP作りの参考にしている「花の顔」(田中肇・平野隆久 著、山と渓谷社)には、4本の褐色の棒状の蜜腺から蜜が出る。花粉媒介者はハエ、ハナアブと記載されていました。

マンサクの花を見ることのできる人はぜひ確かめてみて下さい。

図9 マンサクには、4本の雄しべがありますが、よく見ると、一斉に開く(花粉を出す)のではなく、一つずつ順番に開いていくことが分かります。

 たとえば、図9の右下の図で雄しべを見て下さい。丸まって奇妙な形をしていますね。先端の部分を拡大してみますと、図10のように、丸い膨らみの内側に入っていた葯(花粉を入れている袋状の部分)が反転して外へ出てくるものであることが分かります。

図10 雄しべの拡大図

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