FILE76  オオニガナ Prenanthes tanakae (Franch. et Savat.) Koidz. 
図1 湿地の中に群れて咲くオオニガナ。花が下向きであることに注目。平成13年10月27日撮影。

 オオニガナは本州(近畿以北)の山中の湿地にまれに自生するといわれ、石川県でも限られた湿地(池沼、廃田など)にしか見られません。土地造成の影響を受けたり、自然遷移で環境が変わるなどの影響があるので保護の対象になっています。石川県のレッドデータブックでは準絶滅危惧。国のレッドデータブックでは、絶滅危惧U類にランクされ、総計約1万個体と推定され、平均減少率は約30%、100年後の絶滅確率は約20%とされています。
 茎は高さ1mほどで、直径4cmほどの大形の頭花を10月頃に咲かせます。この大形の花は、秋の湿地でひときわ輝いています。
 学名の「Prenanthes」は「下垂した花」の意味で、頭花を下向きに付けるところから付いた名です(現実には、下を向かないのも沢山あります)。


図2 頭花。咲き始め。雌しべの柱頭がまだ開いていない。 図3 雌しべの柱頭が開きだしている。

図4 雌しべの柱頭は大きく反転している。 図5 舌状花。雄しべの葯が雌しべの花柱を包んでいる。

図6 舌状花の先端。5裂している。
図7 花冠の根元が切り開かれたような形で舌状花ができていることが分かる。

図8 雄しべの花糸が雌しべの方へよってきて、葯が花柱を包んで葯筒(やくとう)を形成する。
図9 雄しべの筒から雌しべを抜き出して見たところ。雌しべの上半分には毛があって花粉がくっついている。

図10 花柱の周りには、葯から出た花粉が付いている。 図11 花柱の上部の刺のような毛が花粉を引っかけている。右:先端方向。左:基部方向)

図12 頭花を包む総苞。 図13 花後の総苞。長い内片と短い外片とからなる。

図14 上部の葉は三角状矢尻形。 図15 下部の葉は深く裂けている。
図16 葉柄は翼を持ち、時には紫色を帯びる。 図17 葉柄の基部は茎を抱く。

図18 果実。平成13年11月11日撮影。 図19 果実。平成13年11月11日撮影。

図20 冠毛の棘。 図21 茎の切り口からは、タンポポのように乳液を分泌する。

 花の構造と受粉について見てみましょう。
 キク科の花は、多数の花弁を持つ一つの花のように見えることが多いのですが、拡大してみると、小さな花が集まったものであることが分かります。それぞれの花を
小花(しょうか)と呼び、その集合体を頭状花序(とうじょうかじょ)または頭花(とうか)と呼びます。頭花あたりの小花の数は様々ですが、オオニガナの場合には、20〜39個と言われています。図2の場合には23個が数えられました。頭花が1つの花のように見えるのは、小花群の基部を包み込んでいる葉状の(ほう)が(がく)のように見えるからです。しかし、これは萼ではなくて、小花群を全体として包む苞なので総苞(そうほう)と呼ばれ、それぞれの片は、総苞片と呼ばれます。小花と総苞片とで頭花を構成していることになります。
 
 キク科の小花の花冠は5個の花弁が合生した合弁花冠で、基部の筒の部分と先端部の裂片(5個)とからなります。オオニガナの小花は花冠の根元で筒を切り開いたような構造(
図7)となり、大きな舌のような1枚の花弁になるので、舌状花と呼ばれますが、裂片の名残は、先端部にあり、ちゃんと5つに分かれています(5歯ともいう)(図6)。オオニガナを含むタンポポ亜科の場合には全ての小花が、舌状花ですが、他のキク科植物(キク亜科:FILE74リュウノウギク、FILE73ハマベノギクなど)には、筒部の長い筒状花(とうじょうか)もあります。

 図2のように、咲き始めには雌しべの柱頭はまだ閉じていますが、その後柱頭は2つに開き、ついには大きく反転します(図2・3・4)。このとき柱頭の下を見ると、濃い色の構造が雌しべの花柱を取り巻いています(図5)。それは縦に長い雄しべの葯が癒合して筒状になって雌しべの花柱を取り巻いたもので集約雄しべと呼び、筒状の部分を葯筒(やくとう)と呼びます。
 開花とともに雌しべが伸長すると、雌しべの上半部にあるブラシ状の毛で葯筒内の花粉を葯筒の外へ押し出し、訪花昆虫によって運ばれるのを待つことになります。このときは、咲き始めの
図2のように、雌しべの柱頭はまだ開いていないので、自分の花粉が自分の柱頭に付くことを避けることができます。自花受粉を避ける巧妙な仕組みと言えます。
 
 
アザミ類のように、訪花昆虫の口や足が雄しべの葯筒に触れた刺激で、花糸が曲がって葯筒が下方に引っ張られ、長さの変わらない雌しべが相対的に伸びることになり、花柱の途中にある膨らんで毛を持つ部分で花粉を押し出すという機構を持つものもあるようで、オオニガナの場合は果たしてどちらであるのかについては、まだ観察ができていません。来年以降の課題です。ただ、オオニガナの場合には、花柱がアザミのように膨らんではいないので、アザミとは異なると予想しています。

 オオニガナ、タンポポ、ノゲシ、ニガナ等のタンポポ亜科に属する種は、小花が全て両性の舌状花であるとか、乳管が発達していて、茎をちぎると白い乳液が出るという特徴があります。果実の熟してしまった個体の茎を切断してみたところ、ジュワッと乳液がにじみ出てきました。(
図21

 
  

花模様