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  Boys Be Internationally Minded   「医学英語入門」  目  次


まえがき(MONOLOGUE)
第一章  なぜいま医学英語が必要か
 第二章  英語とはどのような言葉なのか
     ◆1.英語の歴史
     ◆2.日本語の歴史
     ◆3.英語の背後にあるもの
第三章  医学英語の科学的な学習法
     ◆1.語源からの意味の推測
     ◆2.接頭辞、接尾辞からの意味の推測
第四章  日本人の英語能力はなぜ低い
     ◆1.なぜ話すことが通じないのか
     ◆2.なぜ読むことが苦痛になるのか
第五章  英語でする講演(学会発表)で注意すること
第六章  英語で論文を書くとき注意すること
第七章  国際人としてのマナー(manners)
     ◆1.英語圏で心得ておくべ最低限の manners
     ◆2.英語を話すときの manners
第八章  医師、医学者としての尊厳と人間愛
付  表  一般的な略号と記号

  まえがき (MONOLOGUE)

 近頃、医学部あるいは医学校の多くでカリキュラムに医学英語を加えるようになり、それと並行して「医学英語」の本が書店に数多く並ぶようになりました。しかし、その多くは医学領域で使われる術語を解説したものか、使われる頻度の多い(医学)英語の使い方を文法的に解説したものであり、その医学用語を普通の英単語と置き換えれば、高等学校などで教える英文法書とたいして変りがありません。医師として医学者として十分な英語を使うためには、もちろんそのような術語や文法の理解は必要ですが、ここでは、それとは違って、医療あるいは医学の研究を職業にする人が英語を使う時の「心構え」を、私自身の経験にもとづいて解説しようと思います。

 それにつけても思いだすのは、三十数年前に私がアメリカの大学に留学していたとき出会ったある本のことです。それは、私が週末の余暇をつぶすために始めたテニスの解説書として買った William Tilden の本 Better Tennis ですが、その本は how to ものでありながらテニスの技術についてはほんのわずかしか書かれてなくて、内容のほとんどがテニスプレーヤーとしての「心構え」の書でした。一般の解説書と違って啓蒙されるところが多く、何度も繰り返して読みました。時には風呂の中でさえ読みふけりましたので、最後には紙が変色し、背綴じの糸が切れてぼろぼろになりましたが、そのなかにあった「テニスには3C、すなわち concentration, confidence, courage が大切だ」という主張は、テニスに限らず何事についても当てはまることで、これから医学英語を学ばれる方々にもこの3Cの必要なことを強調したいと思います。

 日本語も同じですが、英語は長い歴史のある言葉です。それを使いこなすには、英語を母国語とする民族の歴史、習慣、考え方を知る必要があります。ご承知のように、英語の多くは古いケルト、アングロサクソン語にギリシャ語、ラテン語が加わった複合語です。とくに医学用語のほとんどはギリシャ語、ラテン語を基礎としていますので、できればそれらを勉強されるよう勧めます。

 言葉はそれを話す民族の伝統、宗教、哲学と切り離すことができません。平たくいえば、それらを知らなければ本当の意味でその民族の言葉を理解したことにはなりません。それを総合したものがいわゆるマナー(教養)で、海外であるいは国内でも外国人とうまくつき合っていく方法は、その国の人々には当たり前になっているマナーをわきまえることです。その意味で、「医学英語」とはいささか異質の「マナー」についてもここで考察したいと思います。

 マナーといっても別に堅ぐるしいことではありません。それは、基本的には他人に迷惑をかけない、不快な感じを与えないということで、その意味でこの本がマナーをはずれていたならば、お許しのほどを平にお願いいたします。

                                    1999年1月         永坂鉄夫 (金沢大学名誉教授)

  第一章   なぜいま医学英語が必要か   


世界共通語と日本語 
  科学、技術から経済、政治と、あらゆる分野で現在ほど日本人の国際感覚の重要性が問われているときはない。通信技術や交通手段の発達に伴い、いろいろな情報がほとんど瞬時に手に届き、また情報を発信することが出来るようになると、国際語としての英語を必要十分な程度に master していることが要求される。とくに科学、技術の世界では、その研究成果を日本語の雑誌に発表してもほとんど価値がないとまでいわれるまでになっている。それは、国際的に情報をやりとりする手段としては、日本語は難しすぎ、世界共通語にはなりえず、瞬時に情報をやりとりする手段としては不適格であるためである。
日本人が海外の著名な学術雑誌にその業績を投稿する数は年々増加している。特に医学とそれに関連した分野、すなわち life sciences の領域においてその増加はきわめて顕著で、一部の雑誌ではその著者の何割かが日本人であるというような状態である。しかし、それらの著者がはたして日本語を書くときと同じ程度に気楽に自分の論文を英語で書いているのであろうか。答えは、いうまでもなく「no」である。

また、現在世界でも日本でも国際会議や国際学会がひっきりなしに行われ、多くの日本人医師や研究者が参加するが、その公用語はこれまた英語である。それらに出席し発表する人々の英語が海外の学者、研究者と十分意思が通ずるほどの level にあるかといえば、これまた、一部の例外を除いて、答えは「yes」ではない。 さらに現在は、たいへん多くの外国人が仕事のため、勉学のために来日し、日本人と同じように生活しているが、日本語の習得の難しさも原因で、十分な日本語の会話能力をもたない場合が多く、彼らが病気で医師のもとを訪れた時に、問診をはじめとして治療に必要なもろもろの指示を的確に伝えることが難しい。的確な処置を行うには、医師が診療に必要な英語会話(医学英語をふくめ)を master している必要がある。
Economic StanceとPolitic Stance 
  このように、いま医学英語を学ぶのは、煎じ詰めれば、世界の医学の進歩に遅れないためと、世界の人びととの交流・意志伝達を促進するためである。前者は、英語を master することによって、世界の情報(医学)の迅速な把握と自分の独創的な研究成果の迅速な発信を目論むもので、いわば economic な stance に立つものといえる。後者は、英語(医学英語)を master することにより、外国人の病気の治療や相談に支障なくするためと、また医科学分野で外国の人びととの共同研究のよりよい推進を目論むもので、大げさないいかたをすれば、世界の人びととの交流、意志の伝達を促進するための手段として医学英語を学ぶものであって、前者の economic な stance と対比し、politic なstance に立つものであるともいえる。


医師(医学者)の国際的視野の拡大 
  しかし、英語(医学英語)を学ぶ目的のうちでもっとも重要なものは、上述の economic と politic な stance に立ついわゆる実務目的を持ったもの以外に、医師あるいは医学者がその国際的な視野を広めるために英語を学ぶということである。英語が使いこなせても、英語を単なる communication の道具として考えている限り、日本人は自分たちを日本以外の国に住む人々と区別し、地球人としての意識と自覚を持つことが難しい。

[NARRATION] 1
  The learning of another language, such as English for the Japanese, serves to broaden one's horizon and general view of the world. From this point of view it doesn't matter whether a Japanese, who has taken the pains to learn English, ever come to use it or not. The fact that he knows it is enough. For by knowing it, he has broadened the horizon of his mind and risen above the limitations of his Japanese consciousness. Thus he is, to the extent that he really knows English, internationally minded.    
From: Milward P., Japan International, Seibido, 1984, p.20.
[医学者の義務としての語学能力]
医学を含め、科学という学問はその用語を学ぶところから始まる。医学を修めるには医学用語を学ぶことが重要である。
医学者がアイデアを有効に交換するためには、使う言葉の意味もアイデアの意味も正確で具体的でなければならない。
ある一つの意味を表わす言葉に、たとえば英語、日本語、ドイツ語、フランス語というふうにいくつもの言葉が存在するのは混乱を招く。
現在は医学の世界でも英語が世界共通語であり、その習得は医学者にとって必要不可欠である。それが出来ないと医者や医学者が国際的に活躍することができない。
新しい研究成果は、自国、他国を問わず、同じ分野で仕事をするすべての研究者に伝えられる必要がある。英語能力の修得は、そのような国際舞台を相手にしなければならない医学者の義務である。

[QUESTIONS]  (第一章)
 1 国際感覚とはどういうものかのべよ。
 2 なぜ医師に国際感覚が必要かのべよ。  
 3 医学英語を学ぶ3つの目的についてのべよ。
 4 英語を学ぶ目的のうちで最も重要なものはなにかのべよ。 
 5 医師とはどのような人をいうのかのべよ。


[閑話休題] 1

  Medicine is not a science but a profession that encompasses medical science learning as well as personal, humanistic, and professional attributes. Nonetheless, the delivery of Western medicine depends totally on science and the scientific method. Physicians must be trained as scientists if they are to use scientific medicine correctly. This involves understanding and applying the thinking patterns of the scientific method, developing an inquiring mind.
From: Cecil Textbook of Medicine, 20th ed., W. B. Saunders, 1995, Introduction.


  第二章  英語とはどのような言葉か


第二章 1.英語の歴史

Prehistoric Britain - Roman Britain
Britain was part of the European land mass until the end of the last Ice Age, around 6000 BC, when the English Channel was formed by melting ice. The earliest inhabitants lived in limestone caves. Around BC 550-350, Celtic people who had no letters migrated from southern Europe. Then Roman came and ruled Britain as a colony for 350 years until AD 410. During this period of Roman Occupation, of course, Latin was official language.


Anglo-Saxon Kingdoms 
By the mid-5th century, AD 440-450, Angles and Saxons from Germany had started to raid the eastern shores of Britain. Increasingly they decided to settle, and within 100 years Saxon kingdoms were established over the entire country. Four Anglo-Saxon dialects were spoken. In 878, King Alfred from Wessex defeated Viking and controlled the whole country. Chronicles and others were written mostly in a West-Saxon dialect.

Viking raids throughout the 8th and 9th centuries were largely contained, but in 1066, the last invasion of England saw William the Conqueror from Normandy defeat the Anglo-Saxon King Harold at the battle of Hastings. William then went on to assume control of the whole country. Viking (Danes) influenced English very much, some words, such as "they, though, and till", are Danish origin.


The Middle Ages 
The Norman operated a feudal system, creating an aristocracy that treated native Anglo-Saxons as serfs. The ruling class spoke Norman-French until the 13th century, when it mixed with the Old English used by the peasants. In 1362, English (Anglo-Saxon) was decided to be the official language in England. Philologically French was the most influential language to English, about 50% of English words today are from Romance (mostly French) by that English is totally a mixed language.


Tudor Renaissance and after 
In Tudor Renaissance and after, the London dialect became the standard English. In the 16-17th centuries, more words were borrowed from Latin. After the World-War II, many American slang had joined modern English which we are now speaking.
       Modified from: Leapman M., Great Britain, Dorling Kindersley, 1996, pp. 39-61.



第二章 2.日本語の歴史
先史時代 
  日本語は、文献の上で八世紀まではさかのぼってたどれるが、それから先のことについてはほとんど分らない。わずかな単語だけは知ることができるが、それも三世紀の半ばに書かれた「魏志倭人伝」に書かれている地名や人名をもって行き止まる。


万葉集、古事記 
  七世紀ごろの日本人がどのような言葉(日本語)を使っていたかは、万葉集や古事記を分析すれば分ることで、事実そのような研究も多いが、その中にも純粋の大和ことばではない借物の中国語などが混ざり、すでにその頃に日本語は中国語(漢語)の影響を強く受けていたことがわかる。


英語の成立と日本語の成立 
古い大和(日本)には固有の文字がなく、知識人の間や宮廷では中国語がそのまま文書の文字として使われ、おそらく中国語も話されたことであろう。しかし、民衆は中国語ではなく土着の言葉(和語)を話し、やがて漢字を使って音の似た和語に当てはめ文字とするようになった。これが万葉仮名で、現在の平仮名や片仮名はそれが変化し基本の五十音に整理されたものである。

日本語(和語)はどのくらい古い言葉であるか、また元はどの言語からどのように別れてきた言葉なのかなどの言語学的な系統研究は専門家でも難しく、ここではそのようなことを論ずるつもりはない。ただ、万葉仮名以前の文字のなかったころの言葉(大和言葉)をブリテン島におけるケルト語あるいはアングロサクソン語に置き換え、中国から入った漢語をギリシャ語、ラテン語に置き換えれば、英語と日本語は全く関係のない言葉であるとはいえ、その成り立ちの点で両者はきわめて似ているといえる。すなわち、日本語も英語も古代の言葉に外来語を半分以上入れた混合語である。


古代日本をとりまく環境 
古代の日本語にもっぱら輸血された言葉は中国語であるが、地理的に最も近い朝鮮半島の言葉がまったく影響を及ぼしていないはずがない。しかし、国語研究者の中には日本語は地理的に日本と最も近い朝鮮半島の言葉とは関係がきわめて薄い(基本的な語順などは同じだが)と説く人もあるが、その真偽は私にはわからない。はっきり文字を持つようになってからの両者の語彙を比べてみてもそれを論ずるには手遅れで、三〜四千年前の半島と日本列島の言葉を比べなければ結論が難しく、文字を持たなかったこととも併せ、それが日本語の起源について研究の進まない原因であろう。


日本語の起源諸説 
日本語と関係の強い言語は琉球語だが、これは日本語の一方言とでも考えた方がよい。世界の各地の小数民族の言葉に日本語の発音、文法、単語の意味などがきわめてよく似た言葉がある場合があり、日本語と日本民族の起源をそれらの地方に求める説などもあるが、それも学界の支持を得たものではなく、仮説の域をでていない。要するに、日本語はバスク語のように世界の言葉の中でも孤立して存在し、かつ習得するのが大変難しい言葉である。


戦国時代−現代 
  戦国時代になって、いままでの大和言葉に、数は少ないがヨーロッパの言葉が入るようになった。これは鎖国政策をとった江戸時代にあっても同様で、それらの多くは日本語化され、もとの意味が変容してしまったものもある。さらに最近は外来語の輸入が加速され、いちいち翻訳することが困難になって、カタカナ語が氾濫するような状態となった。とくに科学、技術領域でその傾向が強く、それは医学領域でも全く同じである。

[NARRATION] 2

  The people of Wa [Japan] dwell in the middle of the ocean on the mountainous islands southeast of (the prefecture of) Tai-fang. They formerly comprised more than one hundred communities. During the Han dynasty, [Wa]envoys appeared at the court; today, thirty of their communities maintain intercourse with us through envoys and scribes ---.

  The land of Wa is warm and mild. In winter as in summer the people live on raw vegetables and go about barefooted. They have [or live in]houses; father and mother, elder and younger, sleep separately. They smear their bodies with pink and scarlet, just as Chinese use powder. They serve food on bamboo and wooden trays, helping themselves with their fingers. When a person dies, they prepare a single coffin, without an outer one. They cover graves with earth to make a mound. When death occurs, mourning is observed for more than ten days, during which period they do not eat meat. The head mourners wail and lament, while friends sing, dance, and drink liquor. When the funeral is over, all members of the family go into the water to cleanse themselves in a bath of purification.

History of the Kingdom of Wei (Wei China) c. A.D. 297.
  From: De Bay, T. Wm., Sources of Japanese Tradition, vol 1, Columbia University Press, 1958, pp.4-5.

第二章 3.英語の背後にあるもの

第二章 3−(1) 英語の特徴

混合語としての英語 
  英語は、日本語と同様に、あるいはもっと深刻に、多種類の言語の混合(ケルト、アングロサクソン、スカンジナビア、ラテン、フランス)した言語の特徴を持つ。したがって、たいへん多くの同義語が存在する。それぞれの言葉のもとをたどれば、ある言葉はケルト語に、ある言葉はアングロサクソン語に、また別の言葉はフランス語にというように複雑であるが、医学英語や科学に関する言葉はほとんどローマン語起源(ラテン語を基礎とした)と考えてよい。

英語の背後にある二大思想 
  いわれるように、言葉はそれを話す民族の思想、文化ときわめて深い関係があり、結局英米の文化は世界の歴史としての二大思想、すなわちギリシャとキリスト教を切り離しては語れない。ヨーロッパ系の人々と付き合うときいつも出てくるのがこの二大思想であり、これが英語の背後に存在するバックボーンといっていい。英語を理解し、それを話す人々と付き合うためには、この二大思想についてある程度の知識をもつ必要がある。

ひとくちメモ 1

 英語は名詞に重きをおき日本語は動詞に重きをおく。たとえば「彼はいつもぶつぶついう」という日本語を英語にすると「He is a chronic complainer.」となって名詞が強調される。

第二章 3−(2) 英単語の祖先:ギリシャ語とラテン(ローマン)語

ギリシャ語、ラテン語と英語 
英語、とくに術語としての医学英語の背後には、ギリシャ語やラテン語などのいわゆる古典語がほとんどそのままの形で潜んでいることが多い。したがって、医学英語(術語)をそれが作られた経緯まで遡って語源的に突き止めることは、言語学的にもたいへん興味のあるところであるが、それ以外に医学生が医学英語を学ぶ上での学習効率を上げるという実利的な意味もある。

ギリシャ文字には大文字と小文字がそれぞれ24ある。ローマ字はこのギリシャ文字から変化したしたものであり、現行の英語の文字の原型もギリシャ文字である。しかし、英語の alphabet は26文字であり、かつ配列がギリシャ文字の alphabet と多少異なるので注意が必要である。
 ヨーロッパ語族  
ギリシャ語とラテン語は言語学上からいうときわめて近い関係にある言語である。サンスクリット語もこの二つの言語と近い関係があり、事実医学英語のなかにはサンスクリット語起源の術語もある。しかし、文明としてギリシャはローマに先立つが、ギリシャ語からラテン語が生まれたのではなく、この二つの言語は同じ祖先語を持つという意味で近縁関係にあるもので、たとえていえば兄弟にあたる。

ラテン語と現在のヨーロッパ各国の言語の関係をみると、この場合はラテン語が母ないしは叔母、それぞれが子ないしは甥・姪とでも考えてよく、たとえばその関係の強さからいうと、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ルーマニア語などのローマン語族は母と子、ドイツ語、英語、オランダ語、デンマーク語などのチュートン語族、あるいはロシア語、ボヘミア語、ブルガリア語などのスラブ語族は叔母と甥・姪程度の関係であろうか。
ひとくちメモ

関係代名詞で結ばれた文があって、その文全体の意味が否定であるとき、主節の動詞が考えや推測を表わす assume、believe、imagine、suppose、think、意図や願望を表わす choose、intend、want、wish、らしさを表わす appear、seem、be likely などである場合に限り、not が主節側にくる。たとえば「I don't think he will come here today.」が普通の英語で「I think he will not come here today.」は例外的な表現である。
  ラテン語とギリシャ語の関係  
  このように、ギリシャ語とラテン語の関係は母子ではなかったが、ラテン語は多くの言葉をギリシャ語から借用した。特に医学(技術)用語にはそれが多く、それがまたそのまま英語に借用されたので、医学英語の術語にはギリシャ語起源のものが多い。


 ラテン語と英語  
  それでは、なぜギリシャ語ではなくラテン語がヨーロッパ各国の言葉になったのか。それはラテン語を使う国であったローマ帝国が長い間ヨーロッパのほぼ全土を軍事、経済の面で支配したからであり、そのような帝国のなかで使われる言葉すなわちラテン語がそれぞれの国で土着的に話されてきた言葉を駆逐あるいは変容させたことによる。ちなみに、ラテン語(lingua latina)とはイタリア半島のローマを含む地方 Latinus で話されていた言葉(lingua)ということで、Latinus の住民 Latini の話す言葉(lingua)という意味である。
 
ラテン語と英語の品詞の比較
ラテン語 英 語
名詞
形容詞
代名詞
数詞
動詞
副詞
前置詞
接続詞
間投詞
冠詞
substantivum
adjectivum
pronomen
numerale
verbum
adverbum
praepositio
conjunctio
interjectio
noun, substantive
adjective
pronoun
numeral
verb
adverb
preposition
conjunction
interjection
article
註:ラテン語の品詞は英語の品詞と同じであるが、ただし冠詞だけはない。単純に比べて綴りの類似は驚くほどである。

 カトリック教会とラテン語  
古い形のラテン語が現在多少ともそのままで使われているのはカトリック教会の中であるが、最近はカトリック教会の中でも各国の言葉でミサを行ってよいことになり、ラテン語が理解できない教会関係者も増えたといわれる。昔のローマ帝国でラテン語がどのように発音されていたか正確には分かっていない。復元された発音があるが、それもそれぞれの国の言葉に影響され、少しづつ異なるといわれる。発音はもちろん、その文法を解説することはこの本の目的ではないので、ここではラテン語(ギリシャ語も含め)についてごく基本的なこと以外は説明を省略する。


 ラテン語の特徴  
  英語と違って、ラテン語の名詞には性(男性、女性、中性)が判然とし、形容詞、代名詞とともに転尾(語尾の変化)し、はっきりした6つの格がある。現在のラテン語系の言葉はそれを引き継いでおり、一つの言葉の持つ意味が一つに限定され、その意味でより厳格な言葉といえる。英語はその点でやや曖昧さがあり、英語で書かれた外交文書の内容がそれぞれ相手側に都合よく解釈されることがあるという話があるのも、そのあたりに原因があるのかもしれない。

ラテン語文法と医学用語例

(a)ラテン語の格
主格 casus nominativus (nom.) (…は)
属格 casus genitivus (gen.) (…の)
与格 casus dativus (dat.) (…に)
対格 casus accusativus (acc.) (…を)
奪格 casus ablativus (abl.) (…より、で、と)
呼格 casus vocativus (voc.) (…よ)

(つづく)


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