安宅の猫は
 木間 一角



     一九七○年夏、大雷鳴と地響きの中
     ファントムが弥生の街に落ちてきた


     「安宅の猫は空の音に脅えとるよ。」と老人のいう

     そうだ、私が見たのは弁慶と飛行場の間の
     夕映えのする老人の街だった
     猫どもは低い 石垣の垣根にさえ
     りんとした尾を振り上げていた

     そんな街に 音が落ちてきたのだ
     私が首をすくめる
     猫どもは 家の下に玄関に逃げ込んでいく
     屋根の奴はあわれにも背を低めて
     ただ石の間で空を見てやがる

      白い猫がそんな時さえ縁台に眠っていたのだ
     「あれは、聞こえんがや。」と老人はいう
     「聞こえんがが一番いいね。」と続く
     何がいいものか、といいかけると
     「みんな、聞こえんといいがに。」
     とつぶやいた。

                            (作品集 砦の上は誰の世界より)