FILE49  アオイスミレ
図1 群落
図2 花を横から見たところ 図3 花柱  
図4 托葉と葉
図5 若葉 図6 果実
図7種子とエライオソーム(顕微鏡写真)
 スミレは春の花の代表選手ですが、中でも、アオイスミレは最も早く咲く部類です。その葉の形が、徳川家の家紋に使われている「葵」(フタバアオイ:FILE50で解説)の葉に似ているところから付いた名だと言われています。
 スミレは種類が多いのですが、アオイスミレにはどんな特徴があるのでしょうか。
1 距(きょ)は太くてずんぐりし、でこぼこしている。(図2)
2 雌しべの花柱の先がカギ型に曲がる。(図3)
3 葉の形は、円心形で先が円い。托葉(たくよう)は縁に毛がある。(図4)
4 若葉は、両側が巻いている。(図5)
5 果実は球形で、毛深い。(図6)
6 種子は長さ2mm位で、その先に1mm位の半透明でぜりー状のエライオソームを付けている。(図7)

 いろいろな特徴がありますが、花の時期なら、雌しべの花柱の先がカギ型に曲がるで、花が終われば果実は球形で、毛深いですぐに識別できます。花も実もなくても、丸くて毛深い葉は大きな特徴です。
 本州、四国、九州の広い範囲の、丘陵地などに多いスミレです。

エライオソームとは:アリを誘引する物質(オレイン酸などの脂肪酸、グルタミン酸などのアミノ酸、ショ糖などの糖)を含んだ種子の付属体のことです。
 学問的には珠皮に由来し、種子が発生時に胎座(たいざ)に付着していたへそと呼ばれる部分にできます。図7でそのことがよく分かります。
 このエライオソームの付いた種子をアリが見つけて巣へ運びます。運ばれた種子は、巣の中でエライオソームの部分だけが食べられ、そのあとの種子は、巣の中のゴミ捨て場に捨てられたり、巣の外へ土と一緒に捨てられたりします。いずれにしても種子は発芽能力を失うことなく、運ばれたことになります。アリにとっても、栄養に富むエライオソームを獲得できるので、双方が利益を得ることになり、アリと植物は双利共生の関係にあるといえます。
このような方法で、種子を散布する植物をアリ散布植物と呼びます。
 日本におけるアリ散布植物としては、スミレ属、イチリンソウ属、フクジュソウ属、ミスミソウ属、キケマン属、クサノオウ属、エンレイソウ属、カタクリ属などに200種類くらいはあると考えられています。
 スミレの仲間は、種子を弾き飛ばす仕組みを持っているものが多いのですが、アオイスミレは、そのような仕組みを持たなくて、果実が地表面すれすれのところで熟し、親株の根元に種子をこぼすだけです。従って、分布を広げるためには、アリの助けがぜひとも必要なので、図7で見るようにエライオソームも非常に大きいのです。
   参考(というよりほとんど引用)(中西弘樹. 種子はひろがる. 平凡社. 自然叢書21.125-147)
 


花模様