FILE59  ツユクサ Commelina communis L. 
        (Commelinaceae ツユクサ科)

図1 ツユクサの花

 ツユクサは至る所の路傍や空き地に生える1年草です。あまりにもありふれているので、遠くから眺めてツユクサか、と済ませてしまいがちですが、よく見るとなかなか面白いところもあります。
 早朝の5時頃から開花し、ほぼ午前中には閉じてしまいます。あまりに短命で、「露の草」と言うことなのでしょうか、それとも朝露に濡れて咲くからなのでしょうか。別名をボウシバナとも言います。おそらく、花を包む半円形の二つ折れになった編笠のような苞の形から来た、帽子花なのでしょう。
 花弁は3枚ですが、上方の2枚は大きく青いのでよく目立ちます。下方の1枚は小さくて無色です。萼片も花弁も雄しべも雌しべも起源は葉ですから、親戚同士といえます。したがって時々、雄しべの花糸が青い花や、小さい無色の花弁に青い色素が混ざっていたり、大きな方の花弁が無色であるのを見ることが出来ます。ツユクサか、と馬鹿にしないで丁寧な観察をすれば、もっといろいろな変異の例を蓄積できることと思います。
 雄しべは6本ですが、上方の3本は、花糸が短く、目立つ黄色の「π」字形の葯をもって昆虫の目を引く役目をしているようです。下方には、長い花糸で楕円形の葯をもつ雄しべが2本あり、雌しべとほぼ同じ長さです。最後の1本は中間の位置にあり「人」字形の葯をもちます。

図2 πの字形の雄しべ(花糸が青い)と中央の「人」の字形の雄しべ 図3 雌しべと2本の長い雄しべが巻き戻りはじめた(11時15分)

 物の本によれば、長い2本以外(中ぐらいの1本と短い3本)は稔性のない仮雄しべだとのことでありますが、果たしてそうなのでしょうか。これら4本の雄しべも花粉を作っています。特に中央の雄しべはかなりの量の花粉を作っているので、その花粉が稔性をもたないということを検証した上での事なのでしょうか、詳しく知りたい(自分で実験するのはちょっとしんどいので)と思います。
 昆虫の訪問がなかった場合でも、花後に雌しべと2本の長い雄しべがくるくると巻いて縮んで、柱頭と葯が接して自花受粉をすることが出来ます。
 

図4 長い雄しべと雌しべが巻き戻りはじめた(11時4分) 図5 花糸と花柱が強く巻いている(11時12分)

図6 ぐるぐる巻きになって収縮している(12時5分) 図7 役目を終わり萼の中に収まった花(14時57分)

図8 オオボウシバナ(左が普通のツユクサ、右がオオボウシバナ)   昭和58年8月自宅で栽培

 古名のツキクサ(着草)が示すように、昔は布や和紙を染めるのに使っていましたが、中国から藍染めなどの技法が輸入されると、光や水に弱いツユクサ染めは衰退しました。しかし、逆に、水に溶けやすい性質を利用して、友禅などの染色の下絵を描く染料として利用されています。それが、最後の写真で見るオオボウシバナの利用です。ツユクサの一変種で、全体に大型で、花の径も4cm近いものです。普通のツユクサと並べてありますからその大きさが判るでしょう。早朝採集した花の絞り汁を和紙に染み込ませ乾燥させたものを青花紙といい、この青花紙を水に浸すと、簡単に青色の染汁を得ることが出来ます。正徳2年(1712年)にはすでに近江、伊勢で売り出されていたそうです。

  
朝(あした)咲き夕べは消(け)ぬる鴨頭草(つきくさ)の消ぬべき恋も我はするかも  万葉集

 ホタルグサという名もありますね。ツユクサは昔から身近な草であったので、「植物和漢異名辞林」という書物には、37もの別名が載っているとのことです。皆さんの地方では、どんな名で呼ばれているでしょうか。


花模様