ヤブガラシは至る所の空き地にはびこる迷惑雑草(私自身は迷惑とは思っていませんので、念のため)です。この草が繁茂すると、その土地の養分を吸収し、付近の藪を枯らしてしまうというのでヤブガラシと言われるとのことです。当地では、貧乏蔓(ビンボウヅル)等と言って嫌われております。おそらく庭がヤブガラシに覆われているような家は、貧乏暇なしで、除草をするゆとりもない貧乏人の家だ、ぐらいの意味合いなのでしょう。
しかしその花はよく見ると面白い形をしていて、子どもの頃には、ロウソクバナと言っていたように記憶しています。この花を見ると、子どもの頃の夏が思い出され、夏の気分が盛り上がる花です。
花序は扁平な集散花序で、4個の花弁は淡緑色で、平たく開き、後には反転します。雄しべは4個です。すぐに花弁と雄しべが落ちてしまうので、あとには雌しべだけが花盤に取り残されることになります。この姿が、花盤の色とも相まって燭台に蝋燭(ろうそく)を立てたようにように見えます。ロウソクバナの所以でしょう。花弁のある間は、雄しべが着いていますので、雄花の働きをし、花弁の落ちたあと(雄しべも落ちている)で雌しべが成熟して雌花の働きをして、自花受粉を避けているもののようです。週刊朝日百科植物の世界(朝日新聞社)37巻には、「花は自家不和合性であるために結実率は低い。」とあります。
ルーペで拡大してみると、花盤には蜜腺があって、蜜を分泌しています。ところが、花が開いているときにはあまり分泌が無く、花弁を散らせてから、分泌が盛んになります。ついにはこぼれるばかりの分泌量です。はじめから分泌している方が良さそうなのに不思議です。
もう一つ不思議なものがあります。花柄などに刺刺(とげとげ)のある球体がよく着いているのです。簡単に植物体から離れ、薄い膜のようなものに包まれており、針で突くと破れてどろりとした透明な液体が出ました。ヤブガラシが分泌したものではなく、訪花昆虫の排泄物ではないかと考えていますが、いまのところ正体不明です。不思議なものです。
ありふれて、迷惑な、価値の無いような植物ですが、それなりの不思議さをもっています。
花盤(かばん):花柄の先端である花床の一部が肥大し、突き出たもの。雌しべの子房は花盤の中に埋まっている。はじめ紅色で後に橙色となる。
自家不和合性(じかふわごうせい):近親交配を避けるために、同じ花や、同じ株の花粉では受精が正常に行われない現象。
垣の木を 覆ひ枯らせし やぶがらし 今は衰へ 秋ゆかんとす 平田春一
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