FILE53  ヤマブキソウ  Chelidonium japonicum Thunb.           Papaveraceae ケシ科

図1 ヤマブキソウの群落

図2 花 図3 ホソバヤマブキソウの葉

図4 果実 図5 普通のヤマブキソウの葉

図6 種子とエライオソーム

 ヤマブキに似ていると言うことで付いた名です。花の色は確かに似てはいますが、ヤマブキの花弁は5枚で、ヤマブキソウの花弁は4枚です。実際はヤマブキはバラ科で、ヤマブキソウはクサノオウに似たケシ科の多年草です。
 宮城県以南の本州、四国、九州に分布します。これまで石川県・富山県では見つかっていなかったのですが、福井県・岐阜県には分布するので、石川県にもあって良いと考えていました。最近、本県にも自生するとの情報を得て、このほど確認いたしました。
 そこは曹洞宗のお寺の境内の一角で険しい崖の斜面です。薄暗いケヤキ林の中のコシャクやヒメアオキの陰で、せいぜい10株未満のヤマブキソウが細々と生きていました。 ご住職のお話しでは少なくとも江戸時代から自生が知られているとのことでした。かつて自生地から境内の目に付くところへ1株を移植したものが大群落をなして繁殖していました。栽培品が逃げ出して崖地で繁殖していたのではないかとの考えも不可能ではありませんが、場所の状況から考えてそれはないと思います。石川県の貴重な絶滅危惧植物の一つとしてこの度石川県から発行されるレッドデータブックにも登録されることになりました。

 ヤマブキソウの葉は形の変化が大きく、小葉の幅が狭く、葉の縁に規則正しい鋸歯(きょし:葉の縁にあるノコギリの歯のようなギザギザの切れ込み)のあるホソバヤマブキソウや切れ込みの深いセリバヤマブキソウ等の品種が知られています。ここの自生地のヤマブキソウはホソバヤマブキソウが多いのですが、移植後に繁殖したものからは普通葉のヤマブキソウ(基本種)が出現し、いまでは基本種の方が多い状態になっています。

 いろんな推測が成り立ちますが、遺伝的に細葉の遺伝子が優性で、普通葉の遺伝子が劣性であれば、見かけ上、細葉のヤマブキソウが、じつは劣性の普通葉の遺伝子を隠し持っていて、ホソバヤマブキソウ同士の交配によって、劣性の普通葉遺伝子が組み合わされて普通葉のヤマブキソウが出現したとも考えられます。もしそうなら、普通葉のヤマブキソウは完全な劣性なので、その種子からはホソバヤマブキソウが生まれてくることはありません。それでは、セリバヤマブキソウはどうなのかなど、遺伝の仕組みは複雑ですから、そんなに簡単には解釈できないのかも知れませんが、将来にわたって観察してみる価値はありそうです。

 なお、図6で見るようにヤマブキソウの種子にもかなり立派な
種枕(エライオソーム)が付いています。エライオソームのことについてはFILE49のアオイスミレの項をご覧下さい。


花模様